◆診療圏調査のここがダメ
保険診療で開業する場合には必ずご覧になる診療圏調査ですが、この数字の良し悪しを鵜呑みにするのは早計です。
よくある無料の(市販システムを使った)診療圏調査のダメな点を挙げます。
1)競合のカウントが大雑把
ほとんどの診療圏調査は、単純な割り算で患者数を予測します。
当該科目を標榜していれば競合として認識されるため、例えば
・高齢院長で、例えば週3日午前のみの診察でも1院
・小児科医が内科も標榜しているなど、専門外でも競合1院
・大病院のサテライトで10診でも1院
というカウントになります。
実態に沿った診療圏調査をするには、各院の状況を個別に確認する必要があります。
盲点なのが繁盛している競合の存在です。
例えば外来数1日100名の内科が近くにあれば、あぶれている患者が必ず自院に来ます。
強すぎる競合はむしろチャンスなのですが、これも診療圏調査では読み取れません。
2)地理的条件を考慮していない
候補地の同心円上で診療圏を設定するので、住民の生活動線が考慮されていません。
川、線路、大きな道路、坂道などで、近くても行きにくい場所などがあります。
また、スーパーとの位置関係、駅へのルート、細かいことですが改札の位置などでも人々の動線は影響を受けます。
駅からの距離はもちろん重要ですが、住民の認知を得る上では、生活動線に接しているかどうかというのがとても大切なことです。
3)各データが最新ではない
人口データは、総務省によって5年毎(西暦で5の倍数の年)に実施される国勢調査を基に算出します。
そのため、どうしても年単位のタイムラグが生じます。
近年、特に都市部においては、高度成長期に形成された都市構造が、再開発によって著しく変化をしています。
二次診療圏である半径1,000m圏内ともなると、数千人単位で人口増が有り得ます。
逆に、存続できない自治体も出るというように、人口流出で医療ニーズも縮小するエリアもあります。
また、競合医院も最新状況が常に反映されているわけではありません。
新規開院や廃院について、タイムリーな情報入手の上でデータ補正をする必要があります。
競合院が1件増減するだけで、想定患者数は大きく変化します。
4)連携を盛り込めない
近隣病院や診療所、福祉施設などとの連携ができるかどうか、当然ながら診療圏調査には盛り込めません。
既存の競合院は、もしかしたら近くの大病院での勤務を経て独立した院長かもしれません。
内科と皮膚科と整形外科が、同門出身で繋がっている仲間かもしれません。
診療圏調査では見えてこない地域医療の状況があります。
5)一番大事なアレが考慮されていない
当たり前ですが、消費者は立地だけで店舗を選びません。
特にこの情報化社会においては、駅前のチェーン店より、駅徒歩5分の裏通りにひっそり佇む美味しいラーメン屋に行列ができます。
医業は大まかなくくりではサービス業です。
競合がいるエリアであれば、患者はサービス内容もクリニック選択の指標にします。
「一番大事なアレ」とはサービスの質です。
「どんなクリニック(≒ドクター)なのか」ということです。
・院長のキャラクターや経歴 (優しいか、よく話を聞いてくれるか、信頼できそうか、専門医の有無)
・スタッフの接遇 (笑顔があるか、言葉使いは適切か、心遣いを感じるか)
・医療サービスの特徴 (専門性、必要な機器が揃っているか、適切な検査をしているか、納得できる処置・処方か)
好立地であれば、初診はそれなりに来るでしょう。
しかし、再訪の動機づけに大きく影響するのは、立地条件よりもむしろサービスの質です。
コンシューマーは感情で動くものと認識することが、経営者には重要です。
自院のサービス品質はご自身で向上させることができます。
開業前に確認すべきは競合院です。
どんなドクターで、診察内容なのかは診療圏調査では見えてきません。
◆おすすめしたい診療圏調査の活用法
診療圏調査での単純計算結果を参考にしつつ、競合の状況を推察し、自院がそのエリアで「選ばれるかどうか」でご判断ください。
次に来る競合もあるかもしれません。
単純計算上では、新規クリニックにシェアを奪われます。
診療圏調査に一喜一憂するのではなく、診療圏調査を基に考察し、そのエリアの特性上、ご自身の強みで勝負できるかどうかを見極めていただきたいと思います。
データを使って更に分析を深めるのには、診療圏調査は有益な情報源となります。
コンサルタントにお声掛けいただき、ぜひご活用いただきたいと思います。
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