◆コロナ禍がクリニック開業に与える影響(ウィズコロナ)
私の人生でリアルタイムに見聞きしているだけでも、この世界では本当に様々な、大きな出来事がありました。
玉音放送、日航機墜落事故、昭和天皇崩御、ドイツ統一とソ連崩壊、阪神大震災と地下鉄サリン事件、同時多発テロ事件…。
中でも、現代を生きる私たち日本人の生活やマインドを大きく変えたと言われるのが、バブル崩壊と東日本大震災です。
「失われた20年」とまで言われるほど、バブル崩壊はその後の日本に長く暗い影を落としました。
東日本大震災を経た日本社会では「絆」という言葉を象徴になったように、今までの価値観、人生観までもが転換されたことは記憶に新しいです。
この文章を書いている4月中旬、今回のコロナ禍はまったく出口が見えません。
聞いたこともなかった中国の一都市における「ただの海外ニュース」だった感染症が、ほんの半年足らずで世界を一変させてしまいました。
今年に入ってから、開業予定のクリニックでも色々な影響が出ています。
まず全てのクリニック開業案件に共通して、
トイレと空調の調達ができない
という現象が起きています。
トイレメーカーも空調メーカーも、部品の一部を中国の工場で生産しているそうです。
発注済の商品も、納期が未確定になってしまうという事態が全国で起きているため、内装工事の工期に響いています。
打ち合わせが困難
開業前の半年くらいは、様々な業者と何十回と打ち合わせを重ねます。
この打ち合わせがなかなか思うように進みません。
関連業者の多くはテレワークとなり、対面での商談はなるべく避けなければいけない状況になってしまいました。
ビデオ会議での打ち合わせが非常に増えています。
しかし、レイアウトの図面をみてやり取りをするときなど、やはり対面のようにスムーズにいかないことが多々あります。
採用の難化
特に受付採用について、応募が少ない傾向がありそうです。
医療機関に固執する必要のない受付・事務スタッフが、やはり感染リスクを敬遠しているのではないかと推測しています。
また、現職が病院勤務の看護師は、このタイミングで病院を離れるのが難しいとも聞きます。
自動精算機の導入
病院ではよく目にする自動精算機ですが、クリニックでも注目を浴びています。
元々は人件費削減目的でしたが、新型コロナウイルス以降は受付での現金受渡を避けるために導入を決めるケースが続いています。
オンライン診療の導入
2018年がオンライン診療元年と言われましたが、点数の低い中で実際に導入する医療機関はかなり少なかったのが事実です。
しかし、今回の新型コロナを契機に、オープン時から導入するケースがかなり増えました。
感染防止で初診解禁というのも、期間限定とはいえ、今後の普及の大きなはずみになるのではないでしょうか。
内覧会の中止
これはほぼ全件で起きています。
「3密」にもなりかねないので、医療機関としてはなかなか開催するわけにもいきません。
こういった状況の中、開業日が後ろ倒しになっているケースが複数あります。
退職日や賃料発生日などの兼ね合いで、開業日が遅れるというのは非常につらいことです。
また、開業時期について少し様子を見るという方が非常に多いです。
◆コロナ禍がクリニック開業に与える影響(アフターコロナ)
アフターコロナにおけるクリニック開業について、主に不動産の観点で少し考察してみました。
結論としては、
・テレワーク定着と景気後退でオフィス空室率が上がる
・空室率が上がるので賃料は少し下がる
・クリニックは希望の物件に入居しやすくなる
です。
以下、紐解いてみます。
【テレワークの定着】
人口減少社会でも社会を維持していくために、政府が取り組んできた働き方改革。
また、オリパラ期間中の混雑緩和のために東京都が提唱してきたテレワークや時差出勤。
一部の企業を除けばなかなか進んでいなかったこれらの試みですが、期せずしてこのコロナ禍で広く一般に浸透してしまいました。
かつて羽田元首相が提唱した奇妙な省エネルック・半袖スーツは全く定着しませんでしたが、東日本大震災による電力不足でクールビズは完全に普及しました。
オフィスワーカーが、男女問わずリュックやスニーカーで通勤するのも日常風景に溶け込んでいます。
フレックス勤務や時差通勤、育児中の短時間勤務などはもう当たり前のことと認識されています。
一度動き始めたこういうムーブメントが、簡単には元に戻らないのは皆が実感していることと思います。
このコロナ禍が終息しても、今回のリモートワークによる在宅勤務は、一時的な現象にとどまらないのではないでしょうか。
既にWeWorkなどのコワーキングスペースが、世界的に急速な拡大を見せていたところで今回の状況です。
現場や直接の接客がマストの業界・職種を除いて、オフィスワーカーにはある程度の頻度でテレワークが定着するはずです。
この数年、企業は優秀な人材を確保するために、先進的で魅力的なオフィスを、競うように都心の一等地に構えてきました。
アフターコロナの世界では、在宅勤務が許される企業かどうかが求職者の支持を得るようになるかもしれません。
テレワークは一過性ではなく、かつての産業革命のように、20世紀社会から21世紀社会へのパラダイムシフトにすら成り得るのではないでしょうか。
テレワークへの急激な移行がなされた場合、コロナショックによる経済への打撃と相まって、近年続いていたオフィス需要を一気に低迷させる可能性が高いです。
空室率が上がれば、ダイレクトに反映されて賃料が下がります。
ここ数年ずっと高止まりしていた賃料相場が、一気に下方修正されると見込まれます。
<空室率と賃料の推移>
【株価と地価と賃料】
「オリンピックが終わったら不動産が値下がりするでしょ」という声に、
五輪後にオフィス賃料相場が大きく下がることはありません
と散々言い続けてきました。
マンションは既に頂点を超えていますが、オフィス・商業の賃貸不動産は非常に堅調でした。
過去最低水準の空室率を背景に、少なくとも2025年くらいまで下落の要因は何もなかったからです。
関係者は皆「バブル崩壊やリーマンショック、東日本大震災級の出来事が無い限りはこのまま高止まりでしょう」と口を揃えたかのように述べていたものです。
米中貿易摩擦は懸念材料ではありましたが、まさかこんな形で中国発の世界的経済危機が起こるとは想像もしていませんでした。
株価と地価は概ね似たような推移をします。
不動産は株のように流動性がないため値動きの幅は狭いですが、ほぼ1年ほど遅れて、株価に追従して地価が変動するような相関関係が見られます。
<株価と地価の推移>
出所)株式会社不動産流通システム
さて、日経平均はコロナショックでおおむね3割ほど下がりました。
2020年2月に23,800円台もつけていたのが、3月には16,500円台まで下がり、その後も19,500円台くらいまでしか戻せていません。
4月中旬時点で言えるのは、来年の年明けから春くらいには、地価が2割程下がっていてもおかしくないということです。
仮に地価が2割下がれば、賃料は少し遅れて1割から2割弱くらいは下がってきます(賃料は地価よりも変動幅が小さい)。
【医療機関と賃料】
当社で関わる保険診療の開業において、賃料は1坪当たり1.8~2.5万円のレンジに収まるのが大半です。
1割下がって坪1.6~2.3万円程度、2割下がると坪1.5~2.0万円ほどでしょうか。
クリニックに一般的な30坪の広さでいうと、月に数万円から10万円台の差額です。
単価5,000円の外来患者が、1日1人増減するのと同じくらいの計算です。
賃料は固定費ゆえ、安いに越したことはないのですが、月10万円はクリニック経営に対してそんなに大きなインパクトを与えません。
10万円を節約して妥協するよりも、もしコンセプトに適した物件があれば20万円高くてもそちらを選ぶほうが賢明です。
その結果、1日5人増患できれば良いのです(月50万円の売上増)。
アフターコロナでクリニックに有利なのは賃料が下がることではなく、物件を奪い合うライバルが減ることです。
企業の業績が好調だった近年、クリニックはなかなか良い物件に入居することができませんでした。
他業態の方が良い契約条件を提示してくるからです。
入居時によく競合して物件を奪い合うのは、飲食・物販・サービスなどの店舗と、中小企業のオフィスです。
ほとんどのビルオーナーは投資目的でビル経営をするので、高い賃料で入ってくれるところを選ぶのは当たり前です。
しかし、保険医療機関は特になかなか高い賃料を払いたがらない業態です。
クリニックは概ね遥かに利益率が高いため、他業態より高い賃料を払っても問題ないはずです。
ではなぜ医療機関が賃料を渋るのかというと、勤務医の給与が高いからです。
借入をして開業するのに、勤務医時代より収入が減るのはバカバカしいからでしょうか。
(坪3.0万円でも実は全然大丈夫ですが、それはまたの機会に)
そんな理由から、景気が良いときには、オーナーにとって医療機関はあまり魅力的なテナントではないのです。
しかしこのコロナショックで経済は冷え込み、またテレワークの普及で、商業・オフィス不動産マーケットでは需給バランスが逆転するでしょう。
そうなると、景気にあまり左右されず、長期的に安定した賃料収入をもたらすという医療機関の特徴が非常に強みになります。
オフィスやホテル、飲食店などの需要の陰で不遇だったクリニックが、今後は優良テナントとしてビルオーナーに歓迎されるタームに入ります。
敷居が高かった優良物件に入りやすくなるこれから先、理想のクリニックを作るという夢は叶いやすくなるでしょう(お天気キャスター風に)。
【結論】
このように、
・テレワーク定着と景気後退でオフィス空室率が上がる
・空室率が上がるので賃料は少し下がる
・クリニックは希望の物件に入居しやすくなる
ため、不動産の観点からは、クリニック開業にとってアフターコロナは悪いことばかりではありません。
◆さいごに
開業は人生の一大イベントです。
ライフステージと密接に関わるため、そんなに大きくはタイミングをずらせないこともあるでしょう。
もう動き始めている方や、どうしてもこの1~2年で開業しなければいけない方がいらっしゃいます。
先の見えないこの状況下で開業するのは、とてもとても勇気のいることと思います。
不安なお気持ちは察するに余り有ります。
しかし、例えば下降局面の株式市場でも、日々の相場の中で利益を上げることは十分可能です。
大きく値を下げた後に反発する銘柄はたくさんあります。
医院開業も経済活動の一環です。
コロナ禍でも、アフターコロナでも、良い側面も必ずあると信じて情報収集していただきたいと思います。
最後になってしまいましたが、ウイルスとの戦いで最前線に立たれているドクターやご家族が多いかと存じます。
感染リスクと背中合わせの中で医療体制を支えていただき、心より感謝申し上げます。
医師のともライフサポート部では、開院までのフルサポートだけでなく、
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